「酒? ブドウ以外の果物から酒が作れるんですか!?」
ルルモアさんの話を聞いて、真っ先に大声を上げたのがお父さん。
その勢いにルルモアさんはちょっとびっくりしたみたいだけど、すぐににっこり笑ってこう言ったんだ。
「ええ。アマンダさんからはそう聞いていますよ」
「それはどんな果物でも? 森で取れる野イチゴとかでもいいんですか?」
「さぁ、そこまでは。私も詳しくは知りませんし」
でもね、そしたらお父さんがもっと詳しく教えてよって言ったもんだから、ルルモアさんは困っちゃったんだよね。
だってアマンダさんがそう言ってたってだけで、ルルモアさんは料理人の一般職を持ってるわけじゃないんだからそんなの当り前だもん。
醸造って言うスキル自体も教えてもらうまで知らなかったんだから、いくらお父さんが聞いても答える事なんてできるはずなかったんだ。
「ふむ。前々から不思議に思っておったが……なるほど、あれはそのスキルによって作られておったのか」
でもね、そんなときにギルドマスターのお爺さんがこんなことをつぶやいたんだよね。
「ギルマス、このスキルについて何か知ってるんか?」
「あっ、いや。帝都で呑んだことがある酒があってな」
だからお父さんは、ギルドマスターのお爺さんに何か知ってるの? って聞いたんだけど、そしたらどうやって作ってるのか前から不思議に思ってたお酒があるんだって。
「わしらが知る酒と言えばブドウから作るワイン、麦から作るエール、それとワインやエールを蒸留して作る酒くらいだろう? だが、それらとは違う風味の酒が帝都にはいくつかあるのだ」
「それをこのスキルで作ってると?」
「うむ。実は前に、ある酒の原料が何かと尋ねた事があるのだ。そしたらなんと答えたと思う? そいつは事もあろうに、芋と答えおったのだ」
「芋? いやいや、芋から酒なんか作れないだろう」
「わしもその時はそう思って教えるつもりはないのだろうと引き下がったのだが、そのスキルが穀物から酒を作り出せると言うのであれば話は変わると思わぬか?」
さっきルルモアさんは、アマンダさんからそのスキルを使えば果物の果汁や穀物からお酒が作れるって言われたって言ってたよね?
って事はだよ、そのスキルを使えばお芋からお酒が作れたっておかしくないよね? ってギルドマスターのお爺さんは言うんだ。
でも、お父さんは納得してないみたい。
「う〜ん。芋もそうだが、麦も穀物だろ? そう考えると、麦のような穂をつける作物しか酒にならないんじゃないか?」
「確かにその可能性もあるが、もし本当に芋が酒になるのなら今より手軽に酒が飲めるようになる。なにせ芋は麦やブドウに比べてはるかに収穫量が多いからな」
夢が広がるじゃないかってニカっと笑うギルドマスターのお爺さん。
でね、それを聞いたお父さんもそれには納得したみたいで、
「確かにな。それに芋ならうちの畑でも簡単に作れるからな、森から野イチゴを積んで来て酒にするよりも簡単だ」
こんなこと言いながら、ニコニコ。
グランリルの村ではお酒なんか造ってないから、今まではイーノックカウで買って来た分しか飲めなかったでしょ?
でもほんとにお芋からお酒が作れるようになるんなら、もっといっぱい飲めるようになるねって思ったみたい。
「よし、善は急げだ。ルディーン、今からそのアマンダさんって人の所へ行くぞ」
だからすぐにそのスキルの事を聞きに行こうって言いだしたんだけど……。
「何を言ってるのよ、ハンス!」
でもね、お母さんにそんな事できるはずないでしょって、怒られちゃったんだ。
「今日もずっと森の中を歩き回って狩りをしてきたのよ? それなのにこれ以上小さなルディーンを連れまわそうだなんて、私は許しませんからね」
「そうですよ。それにただ話を聞くだけって言っても、お酒を作り出すようなスキルの説明が短い時間で済むわけがないでしょう? ルディーン君にそんな無理をさせるつもりですか?」
おまけにルルモアさんまでお母さんと一緒になって怒りだしたもんだから、お父さんだけじゃなくってギルドマスターのお爺さんもちっちゃくなっちゃった。
「じゃ、じゃあ明日だ。明日ならいいだろ? ルディーン」
「駄目だよ。だってポイズンフロッグをやっつけたらみんなで森まで狩りに行こうねって、キャリーナ姉ちゃんとお約束してるもん。それなのにアマンダさんの床に行くからダメって言ったら、お姉ちゃん、きっと怒っちゃうよ」
キャリーナ姉ちゃん、僕ばっかりお父さんたちと一緒にいるからずるいって言ってたもん。
なのにポイズンフロッグをやっつけたけどアマンダさんとこに行くからお留守番ねって言ったら、きっとお姉ちゃんはすっごく怒っちゃうと思うんだよね。
だから明日はダメって言ったら、お母さんのそうだよねって頷いてくれたんだ。
「早く知りたいんだが……やっぱりキャリーナは許してくれないかな?」
「当り前でしょう!」
「キャリーナ姉ちゃん、きっとお父さんなんか嫌いって言って、ぷぅって膨れちゃうと思うよ」
「そうよね。もしかすると、ハンスとはしばらく口をきいてくれなくなるかも」
それを聞いたお父さんは大慌て。
そりゃそうだよね。だってお父さん、キャリーナ姉ちゃんの事、大好きだもん。
なのにちょっとの間でもお話してくれないなんて事ないなったら、きっとお父さんはすっごくしょんぼりしちゃうと思うんだよね。
「そんな事になったら一大事じゃないか!」
「そうでしょ? だからアマンダさんのお菓子屋さんを訪問するのは明後日にしてください」
お母さんにそう言われて、しょんぼりしながらもいいよって頷くお父さん。
「仕方がない。まぁ、どんなものから酒が作れるようになるのかが解っても、そのスキルとやらをルディーンがすぐに使えるようになるかどうかも解らないんだから今は少し我慢するとするか」
「うむ、それがよかろう。カールフェルト夫人やルディーン君の言う通り、娘さんに嫌われてしまっては一大事だからな」
そう言って、うんうんって頷いてるギルドマスターのお爺さん。
それを見てたルルモアさんがちっちゃな声で、
「ギルマスも前にお孫さんを怒らせちゃって、しばらく口をきいてもらえないんだって大騒ぎしたことがあるのよ」
そう僕に教えてくれたんだ。
「明後日は何時ごろにお店を訪れるつもりですか?」
ギルドマスターのお爺さんとのお話合いが終わったって事で、僕たちはお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが待ってる宿屋さんに帰ろうとしたんだ。
でも、そしたらルルモアさんがこんな事を聞いてきたんだよね。
だから何で? ってお母さんが聞いたんだけど、そしたらその時にはルルモアさんも一緒に行きたいんだって。
「皆さんが部屋を出る際に、ギルドマスターから、話の内容が気になるから一緒に行って説明を聞いて来てほしいと頼まれてしまって」
「ああ、確かにギルドマスターも芋からお酒ができるかどうか、気になっているようでしたものね」
お芋からおかけが作れるのかも? って言うのは元々、ギルドマスターのお爺さんが言い出した事だもん。
だから気になっちゃってお仕事が手につかないと大変だからって、ルルモアさんも仕方ないなぁって思いながら、いいですよってお返事したんだってさ。
「そうですねぇ。じゃあ、当日は先に冒険者ギルドによるので、そこで合流しましょう」
「いいのですか?」
「ええ。アマンダさんのお店は、この冒険者ギルドからそれほど離れていませんから。ハンスも、それでいいわよね」
「俺はその店の場所を知らないから、シーラが問題ないと思うならいいと思うぞ」
「ありがとうございます。それでは当日、私はこの冒険者ギルドでお待ちしていますわ」
と言うわけで、僕たちは明後日、アマンダさんのお菓子屋さんにまた行くことになったんだ。
作中にワインやエールから蒸留酒を作ると出てきます。この場合、ワインがら作るのはブランデーですが、エール(正確にはホップを加えずに発酵させたもの)から作れるのはウィスキーではないんですよね。
じゃあ何かと言うと、麦焼酎ぽい物が正解。
実を言うと、この世界にはまだウィスキーはありません。でも寝かせるとちゃんと琥珀色にはなるし、味もまろやかになっていくので蒸留酒を樽で長期保存したものが高級であるという事は変わりないんですけどね。